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- 骨粗鬆症のお薬「イベニティ」
骨粗鬆症の薬物療法
私たちの体の中では、破骨(はこつ)細胞による「骨吸収」(古い骨を壊す)と骨芽(こつが)細胞による「骨形成」(新しい骨を作る)がくり返し行われています。この骨代謝のバランスが崩れた骨粗鬆症に対して、これまでは骨吸収を抑制する治療薬がメインで使用されており、骨折の危険性が高い骨粗鬆症の方に対しては骨形成を促進するお薬も使われるようになっていました。
しかし、従来の骨粗鬆症の治療薬では「骨吸収の抑制にともない、骨形成も低下する」「骨形成を促進すると、骨吸収も上がる」という状況があり、作用の両立が難しいという状況がありました。
骨粗鬆症の新しい治療薬「イベニティ」
2019年に登場した「イベニティ」は、スクレロスチンという物質の働きを阻害することで、骨量を増やし、骨折のリスクを下げる新しい治療薬です。
スクレロスチンは骨細胞が出す物質で、骨芽細胞による骨形成を抑えるとともに、破骨細胞による骨吸収を促して骨量を減少させる働きがあります。イベニティはこのスクレロスチンに結合し、働きを阻害することで、これまでよりも短期間で骨密度を上げることができるようになりました。
従来のお薬とは異なり、骨形成の促進と骨吸収の抑制のどちらにも作用することから、イベニティはデュアル・エフェクト(2つの作用)を持つお薬として注目されています。
骨折の危険性が高い方に使用されます
イベニティは、次のような骨折の危険性が高い骨粗鬆症の患者様に対して使用します。
- 骨密度が低い方
- 高齢の方
- 骨折をしたことがある方(50歳以降で背骨、手首、腕の付け根、足の付け根を骨折した場合)
- 家族の中に足の付け根を骨折したことがある人がいる
イベニティの治療の特徴
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1ヶ月に1回、2箇所に皮下注射
治療では、1ヶ月に1回、2箇所に皮下注射による投与をし、これを12ヶ月続けて行います。イベニティの投与終了後には、プラリア(骨吸収阻害薬)など別のお薬による治療を開始します。投与終了後、別のお薬を使用する治療を続けることで、より骨密度を上げ、骨折のリスクを下げることが期待できます。
なお、イベニティの投与期間は12ヶ月までとなります。
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迅速な骨密度の上昇が期待できます
現在では、骨折のリスクが高い方に対し、骨形成を促進するお薬としてフォルテオなどの副甲状腺ホルモン(PTH)剤などが使用され、迅速に骨の量を増やし、骨を強くすることが可能となっています。
しかし、背骨(腰椎)に対しては急速な骨密度の上昇がみられるものの、股関節(大腿骨)に対する効果としては、じゅうぶんではないという側面がありました。この点において、イベニティは股関節(大腿骨)に関しても骨密度を短期間に上昇させることが可能で、また、1年間のイベニティ投与後、別の適切な薬による治療を継続することで、比較的早い時期から大腿骨骨折のリスク低下が期待できるようになっています。
治療薬の効果的な使用のために
骨粗鬆症の方、なかでも骨密度が低い方や、すでに背骨を1~2箇所骨折したことがある方は骨折の危険性が高くなります。このような方の場合、骨吸収(古い骨を壊す)を抑制するお薬よりも先に、骨形成(新しい骨を作る)を促進するお薬を使用する方が高い治療効果を得られることがわかってきました。
また、骨形成の促進と骨吸収の抑制に作用するイベニティを1年間使用し、投与終了後に骨吸収を抑制するプラリアを1年間使用した場合では、イベニティ1年とプラリア1年の2年にわたる治療で、プラリア7年分の治療と同程度の骨密度の上昇が期待できると考えられます。
費用の面からみるとイベニティは比較的高価になりますが、背骨だけでなく股関節に対しても速やかに骨量を増加できることから、骨折予防に役立つ、効果的な骨粗鬆症の治療薬と言えるでしょう。
イベニティの注意点
イベニティの治療中は、低カルシウム血症の軽減のため、カルシウム、ビタミンDの補給が必要な場合があります。
また、次のような症状がある場合は、すぐに医師にご相談ください。
- 指先や口まわりのピリピリ感(低カルシウム血症)
- 胸の痛みや締め付けられるような感じ、冷や汗、意識の低下、片側の手足が動かしにくくなるなど(心血管障害)
- 太もも、太ももの付け根の痛み(大腿骨転子下、近位大腿骨骨幹部の非定型骨折)
- 抜歯後の口の痛み、腫れ、歯のゆるみや浮いた感じ、顎の痺れ、発熱、食欲不振(顎骨壊死・顎骨骨髄炎)
お薬の使用に関しては、患者様の骨密度や血液検査結果、骨折歴、生活環境などに応じて、ご本人と相談のうえ主治医が適切なものをおすすめします。症状など不安に思うこと、骨粗鬆症や治療薬について知りたいことなど、些細なことでも遠慮せずにご質問ください。